廃神社にたどり着いたとき、社の前では薙と崇志が待ち構えていた。
隣には伊織と凛もいる。
「随分と長い偵察だな、秋津君」
豊はぐっと唇を噛み締める。
「秋津豊!」
「ゆんゆん!」
彼らの背後には、禁錮包囲結界によって捉えられた美沙紀と琴音の姿が見えた。
「様子を見に行くといって出て行った君と入れ替わりにこいつらが来た、天照は交歓学生の入れ替えでもするつもりか」
飛河の隣で崇志がヒュウと口笛を吹く。
「ナギ、それって超クールなお言葉だぜ、つうか、ゆんゆんもどうして俺らを売るかなあ」
「そんな」
豊は思わず大声を出していた。
「売るなんて、そんなつもりない、ただ俺はペンタファングと執行部が争うのなんか」
「僕らは抗争をしに来たわけじゃない」
冷たい薙の声が言葉をぴしゃりと遮る。
「任務の内容を履き違えるな、ただ、障害になるようならば排除するだけだ」
「あなたがたにどうにかできる執行部だと思って?!」
「バカ女は黙ってろってんだよ!」
伊織が一喝して美沙紀をギロリと睨んだ。
「ねえゆんゆん、こっち戻ってきなよ、今ならまだ許してあげるよ?」
今度はうって変わって、可愛らしい態度で豊を見詰めてくる。
「そうだ、豊、下らん感傷に惑わされるなど愚の骨頂だ、いい加減目を覚ませ」
「それともゆんゆんはやっぱ天照の人間で、月詠なんかとやんのはヤダってか?」
「そ、そんなつもりじゃ」
「秋津」
豊ははっと薙を見詰めた。
薙は、なぜかいつもよりイライラしているように見える。
相変わらずの無表情であったのに、豊にはそう感じられた。
「今後の処分は追って連絡する、君の任務に戻れ」
「秋津豊!」
美沙紀が叫ぶ。
「目をお覚ましあそばせ、同胞が捕らわれているのですよ?!」
「ゆんゆん!」
琴音は泣きじゃくっている。
「ゆんゆん、怖いよう、助けてよう」
「うっさいなあ、黙れっつってんのが分っかんないのかなあ!」
伊織が怒鳴ると同時に、結界の天井が少しだけ低くなった。
美沙紀と琴音が小さく悲鳴をあげる。
「秋津、早く戻れ」
薙が宣告を繰り返す。
「秋津豊!」
美沙紀らしからぬ必死の形相だった。
「ゆんゆん!」
琴音の目が暗に信じていると告げていた。
ぐるぐる、ぐるぐる。
混乱した豊は、突然吼えるように声を張り上げる。
「うあああああああああ!」
体中の験力が爆発したようだった。
ただ、衝動に任せるまま、気付けば両手に印を組んで美沙紀達のほうへ向けていた。
「何?!」
怪訝に薙が呟いた瞬間。
豊から発せられた波動は、禁錮包囲結界を粉々に打ち砕いていた。
閉じ込められていた二人はこの機を見逃さず、左右に分かれてこちらへ走ってくる。
「あ、ちょ、ちょっとバカ、まちやがれ!」
「ナギ!」
薙は豊を凝視していた。
豊は、今何が起きたのかよく分からずに、そのまま呆然と立ち尽くしている。
「豊!」
背後から綾人の声が聞こえた。
ビクリとして振り返ろうとした、その瞬間。
「秋津!」
突然腕を引かれた。
慌てて見ると、薙が双眸に怒りの炎を燃え上がらせて豊を睨んでいる。
「総員、速やかに現状を離脱、ポイントBまで撤退せよ」
口早に告げて、豊を引きずりながらそのまま走り出した。
「ひ、飛河!」
必死に振り返ると、綾人たちがなんともいえない表情でこちらを見送っている。
けれどそれも、すぐ木立の陰に隠れて見えなくなっていった。
腕を引く薙の力は尋常でない。
「痛いっ」
豊は叫んだが、無視された。
「飛河、飛河!頼むから、放して!」
薙は一向に聞く様子もなく、そのまま走り続けている。
「飛河!」
(続)